森田正馬と同じように自宅を開放して入院森田療法を行った 森田療法の名医、藤田千尋(精神科医)が書き残した森田療法の研究書。
森田正馬の生い立ち、時代・文化背景、病理、治療目的、治療論まで網羅。
【目次】 | |
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1 | Top |
2 | 解説 |
3 | 本書「はじめに」 |
4 | 本書の内容 |
5 | 本書の目次 |
6 | 藤田千尋・プロフィール |
7 | 編纂にあたって |
8 | 批評記事 |
9 | クレジット |
10 | 関連事項 |
11 | 書籍の仕様・ご購入 |
解説
気づき気づかう心と不安障害(神経症)
森田療法を深く理解したい方にとっての大望の書
2014年3月。常盤台神経科(東京・板橋区)院長、藤田千尋医師が他界されました。91歳でした。
藤田は、昭和40年に自宅敷地内に神経科医院 常盤台神経科を開院し、およそ50年にわたって、入院森田療法を実施した生涯臨床家でした。
近年における森田療法は、入院施設の減少、患者さんの心性の変化など様々な状況の中で、外来森田療法が治療の主流となっています。そんな中で、自宅を開放して入院森田療法を実践し続けた藤田は、森田療法家の中でも一目置かれる存在です。また、優れた理論家としても知られています。
藤田は、芭蕉の言葉“不易流行”を引用し、森田療法における、変えてはならない本質(不易)と、時代に合わせて変わっていくもの(流行)を、亡くなる直前まで模索し続けました。
本書「森田療法 その本質と臨床の知」で藤田は、約60年の臨床経験を基に、時代の流れの中でも変わらない、森田療法の本質を様々な角度から浮き彫りにしていきます。
簡易な入門書ではありませんが、森田療法を深く理解したい方にとって、待望の書籍と言えます。
本書「はじめに」
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本書の内容
本書の特徴1 気づき・気づかう心
森田療法では、専門用語と日常語が混在して使われており、理解しやすい反面、受け取る側の個人的な判断や思い込みが入り込み、多義的になる傾向があります。
本書で藤田は、神経症の病理を「気づき・気づかう」という平易な言葉で言い表し、多義的になりがちな森田療法を、一つの本質へと立ち返らせます。
さらに本書で藤田は、古事記から近松門左衛門に至るまでの日本文学の中で、「気づき」「気づかう」という言葉がどのように使用され、どのようにその意味を変遷させていったかを考察します。その変遷の中に、日本人の近代自我発達の歴史を見出し、それを神経症の悩みと不安、そしてその治療法である森田療法へと繋げていきます。
それは本書を 単なる森田療法紹介の書から、日本人論、日本文化論へと高める、大きな魅力となっています。
藤田は診察の際に、患者さんの症状や苦しみの訴えだけを診るのでなく、患者さんの生きている「境遇」を診ることを強調しました。つまり病気だけでなく、人とその人生を診るということです。
本書において藤田は、まるで森田療法を診察するかのように、森田療法の「境遇」、そのすべての因子を丁寧に検証していきます。
・森田正馬の生い立ちと家族
(生育歴、森田家の心性、神経症体験など)
・当時の社会状況
(明治維新、帝国憲法、教育勅語、西洋化、近代化など)
・時代の精神性
(明治維新を境に変化した、自己実現を求める若者達の意識など)
・日本人の心性
(自然風土からの影響、気づき・気づかう心性など)
・東洋思想の影響
(儒教、朱子学、仏教、禅、神道など)
・当時の精神医学動向
(ヒポクラテスの時代から明治までの精神医学の変遷など)
・森田正馬が森田療法を確立するまでの経緯と病理・治療論
個人的な判断や思い込みを排し、広範囲な領域に及ぶ これら「境遇」の集積と検証によって、藤田は森田療法の真実と本質を浮き彫りにしていきます。
そんな本書は、森田療法の“不易流行”を明らかにする大著と言えます。
本書の目次
はじめに
序章 森田療法とは何か
第一部 森田正馬、人とその業績 1章 森田の人間形成について
1)人となりと血縁
2)家族観 -恒心とその受容-
3)精神医学志向への内面的布石
第二部 森田療法の萌芽
2章 森田をめぐる精神医学の動向
1)精神医学への森田の寄与
2)森田神経質と森田療法の確立に関するまでの森田の動向
3章 森田の精神療法観
第三部 「気づき・気づかう」心性
4章 「気づかう」と「ヒポコンドリー」
5章 森田の心身同一論
第四部 ヒポコンドリーをめぐって
6章 神経質素質者の特徴
1)ヒポコンドリー(心気症)の歴史
2)異常人格についての森田の構想
3)過敏性体質説に関する森田の見解
4)森田療法における「ヒポコンドリ-性基調説」
5)神経質素質者の精神的傾向
6)「ヒポコンドリー性基調」から「生の欲望」へ
7)「ヒポコンドリー性基調」の両義性
第五部 森田神経質の精神病理について
7章 森田神経質の発症条件
8章 森田神経質の特徴と症候論
1)神経質への森田の構想
2)森田神経質 発症の仕組み
第六部 森田療法の治療論
9章 治療法発展の発端
1)森田療法と日本思想
2)森田療法の治療システムにおける基本の構成要素
10章 森田療法の治療形態
1)入院療法(原法)
2)各治療期における患者の体験
3)日常生活における作業の意味と価値
4)日記による指導とその目的
5)森田療法における治療的環境条件
6)森田療法の治療目標
11章 「不問」という「間」について
1)治療者の役割について
2)「不問」と「境遇の選択」に生じる患者の抵抗
12章 常盤台神経科
第七部 森田療法の応用
13章 集団療法における森田療法的アプローチ
14章 連句活用による森田療法的アプロ-チ
15章 外来森田療法
1)外来森田療法の実際と標準化の可能性について
2)説得的コミュニケーション
3)外来森田療法の症例
4)日本森田療法学会による外来森田療法ガイドライン
第八部 森田療法における治癒について
16章 森田療法における治癒とは
1)治癒について
2)治癒と養生
3)「あるがまま」の意味について
第九部 森田療法の未来
17章 森田療法の本質と特徴
おわりに
関連事項 解説
関連年表
藤田千尋 略歴
藤田千尋・プロフィール
1923年 | 長崎県生。 |
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1948年 | 東京慈恵会医科大学卒業。 |
1950年 | 同大学精神医学教室入局。 |
1960年 | 同教室講師。 |
1961年 | 自宅敷地内に 精神科診療所「常盤台神経科」を開設。 |
1983年 | 森田療法学会理事。 |
1986年 | 英書「Morita Therapy」(医学書院)を出版。 |
1989年 | 第七回森田療法学会会長。 |
1992年 | 第三回森田正馬賞受賞。 長年の「治療的生活共同体」と呼ぶべき、入院森田療法や森田療法に関する研究活動が評価される。 |
1999年 | ビデオ「森田療法ビデオ全集1 生きる」で、 森田療法を解説。 |
2001年 | ビデオ「森田療法ビデオ全集2 常盤台神経科」で、入院森田療法を解説。 |
2013年 | 「常盤台神経科」を閉院。 |
2014年 | 3月6日 永眠。 12月 著書「森田療法 その本質と臨床の知」出版。 |
編纂にあたって
編纂 野中 剛
藤田千尋先生が他界された。 十数年前、「森田療法ビデオ全集 第1、2巻」にご出演いただいた後は、新しい本の執筆を、亡くなる寸前までなさっていた。
本の出版打ち合わせとして、私はこの10年、ほぼ毎月 先生にお会いしていました。出版を待たずして旅立たれたことを、本当に悔しく思います。
先生の功績として、まず最初に言及すべきことは、自宅敷地内に「常盤台神経科」を開院し、約50年、入院森田療法を実施したことでしょう。夫人も治療補助者として入院患者の生活を支え、「家庭的な雰囲気の中で行う鍛錬療法」という、おそらく森田正馬の方法に一番近似した方法で、入院森田療法を行っていました。先生は、そんな臨床の場にしっかりと足を下した生涯臨床家でした。
本書「森田療法 その本質と臨床の知」は、治療者だけでなく、一般の読者にも向けて執筆された書籍で、先生の60年に及ぶ、森田療法の臨床実践と研究の集大成といえます。
私は、かねてから編纂と出版の大役を先生と奥様のから仰せつかっていましたが、先生のお亡くなりになった後、腰の高さまで積み上げられた原稿を見て、ただただ呆然とし、その重責に身のすくむ思いでした。
編纂作業は、藤田千尋という人間、その底に流れる“知”の源泉を、一つ一つひも解き理解する旅のようでした。誠に得難い経験をさせていただきました。
藤田千尋という“知”は、直感型の“知”ではなく、一つ一つの学術的事実を集積して積みみ上げていく、構築型の“知”です。時にその学問的難解さに悶絶することもありましたが、自分を鼓舞し、できるだけ一般の読者にも理解できるように編纂したつもりです。そして、理解の補助になればと思い、巻末に「関連事項解説」を追加しました。
B5判、横書きという書籍の形態は、先生が強く望まれていた理想の書籍形態です。そのため、決して安価とは言えない定価設定となっています。しかし、価格に劣らない読み応えのある内容になっていると自負しております。
森田正馬は、精神医学という科学の枠組みの中で、森田療法がきちんと評価されることを生涯望んでいました。藤田先生もその願いを継いでおり、今回の書籍も、一般の方々の理解だけでなく、学術的にも価値のある書籍にすることが目標でした。B5判、横書きという学術論文のような書籍形態には、そんな願いが込められているのでしょう。 編纂者として、本書が森田療法を深く理解しようとする方にとって、いつの時代になっても寄って立つ場所となる書籍になればと願って止みません。
最後に、藤田先生の森田療法の世界を、私の駄文でまとめましたので、以下に掲載させていただきます。
本書は森田療法の簡易な入門書ではありませんので、まずは以下の文章を、森田療法の入門としてお読みいただけたら幸いです。これに学術的な深み、臨床家でなければ語れない知見、症例などを加え、森田療法の本質、その深淵に迫ったものが、藤田千尋著「森田療法 その本質と臨床の知」となります。
批評記事
NPO法人 生活の発見会 発行 「生活の発見」2015年10月号
評者:明念倫子(生活の発見会)
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クレジット
書籍名: | 森田療法 その本質と臨床の知 |
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著者: | 藤田千尋 |
ISBN: | 978-4-9907953-0-6 |
編纂・脚注・関連事項解説・年表: | 野中 剛 |
表紙・装丁・ブックデザイン: | 大野由里 |
印刷: | 株式会社ジャムス |
発行者: | 野中 剛 |
発行所: | 有限会社ランドスケープ |
協力: | 岡本常男、日本精神療法振興会 |
造本: | B5判 / 上製本 / 312頁 |
定価: | 8,250円 本体:7,500円+税金) |
関連事項
>>本書「はじめに」 |
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